瞳の中のイリス

その他ポケモン

 突然だが、女の子に「ノされたい」と思ったことはあるだろうか。いや、そういう嗜好という訳ではなく。
 自分はある。


 それは初めて彼女と相対した時のことだ。
 何のことはない、普通の日常。よくあるポケモンバトル。せーの、でボールを投げ合って試合開始。さてどう出る? と相手に目を向けた瞬間。

 ──なんて目をするんだ、と思った。

 背筋が粟立ったのを覚えている。
 殺気と言うには少し違う、でも気を抜けない緊張感。プレッシャーとでも言うべきか。彼女の目は、針の穴すら見落とさないとでも言うように状況を観察し続けていた。
その目に灯った強い光が、射抜かんとばかりに場に向けられている。ギラギラとした闘争心でもなく、勝敗にこだわるが故の焦燥でもなく、ただ彼女は目の前の試合の全てを見たいという好奇心に突き動かされていた。
 極度の集中。それを肌で感じると、こんなにも圧倒されるものなのだと初めて知った。
 彼女の戦いは、荒削りながらも力強いものがあった。ポケモン達の相性や天候はもとより、地形などにも目を向けて爆発的な粘りを見せた。
 常に状況を打開するための一手を模索し続ける観察力、固定観念に縛られない発想力。
 天才だと思った。戦いながら、自分はただただ圧倒され続けたのだ。
 ポケモンバトルにおいて、ポケモン達とのコンビネーションや、知識量は非常に大きなウェイトを占めている。だが、頭ひとつ飛び抜けた強いポケモントレーナーになるには、それだけでは足りないのだ。


 結論から言うと彼女は負けた。
 完膚なきまでに叩きのめされた。あの様子だと、悔しさのあまり癇癪を起こすのではと考えていたが、それは完全なる杞憂であった。
 先程までとは打って変わって、満面の笑みを浮かべながら、楽しかった! と言ってのけたのだ。健闘を讃える握手をしながら、繋いだ手から送る興奮を感じる。嬉しくて仕方がないという心情が溢れていて、何故だかこちらまで心が躍ってしまう。
 本当に彼女はポケモンと共にバトルをするのが好きなのだと感じると同時に、胸の奥に熱いものが込み上げる。それは、確かな興奮であった。また、彼女と戦うことができるという喜びである。
 その瞬間に、自分はきっと彼女に魅せられてしまったのだろう。あの目をもう一度見たいと思ってしまったのだ。
 同時に、彼女はきっと世界に通じる頂に立つ人間なのだと直感した。その姿を見てみたいと、そう願ってしまった。
 再戦を誓う彼女に応えながら、次はどんな戦いが待っているのだろうと期待に震える。最高の戦いができるようにもっと強くならねばと、自然に口元が笑みを描いていた。