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それは巡回中のことであった。戦争が終結してから、大きな争いもなくフォドラは平和そのものである。旧来の統治体制が変わったという訳ではないが、より良いあり方を模索して国王と大司教は議論を交わし続けており、少しずつ変革しつつある。本日は国王がガルグ=マクを訪っての会談の日であった。長く続いた激論を終えて、今は二人の首長も休みを取っている。
戦争が終わったとはいえ、気を抜くことは許されない。たとえ鍛えた剣の腕が活躍する場がなくとも、それこそが良きことなのだと喜び、万一にもその機会が訪れないように巡回を行うのが騎士というものである。今のフォドラにおいて、国王と大司教は決して失うことの許されない人物である。侵入者など許さぬと、今日も平穏な大修道院内を見回っていく。そうして大広間の三階に辿り着き、大司教の私室を通り過ぎようとした時、耳に届いた微かな音に何事だろうかと足を止めた。振り返る。緊張に神経を尖らせながら、音の正体を探ろうと息を殺して耳を澄ます。
漏れ聞こえたのは上擦った法悦の喘ぎ。ぐずぐずに溶け切ったひどく甘い糖蜜のようなその声音は、普段はごく落ち着いた響きを以て耳朶を打つのだ。どこか人間離れした、女神のような清廉かつ荘厳な雰囲気を持ったその人が、こんな欲に塗れた蠱惑的な声を発するのかと、落雷に打たれたような衝撃が頭の天辺から爪先まで駆け抜ける。
──その瞬間、知りたいと思ってしまった。
神聖な空気を纏う礼服の下にある、豊満なその肉体を。透けるような白い肌を、その柔らかさを。秘された場所にある熱く熟れて蕩ける肉と、崩れることのないどこか冷たさを感じさせる表情が官能に歪む様を。身の内に宿った黒々とした劣情と鮮烈な衝動。得体の知れない大司教を暴きたいという思いが、自らの内であっという間に肥大していく。
職務など、完全に忘れ去っていた。足音を忍ばせ、扉の前に立って耳をそばだてる。興奮にどくどくと心臓が早鐘を打っていた。自分の知らないものがそこにある。あの美しい人の乱れた姿がそこにある。考えただけで、自然と息が上がっていた。
把手に手をかける。そして、音を立てぬように秘密の園の扉をゆっくりと開いていく。気取られぬよう、ごく小さく開いたその隙間。途端に、どっと濃厚な情交の香が流れ出してきて圧倒された。扉の先は、まるで靄がかかっているかのように別世界の空気を漂わせている。
国王と大司教が、激しく口を吸い合っていた。大司教は何度も激しく国王の唇を求め吸い付き、国王がそれに応えて艶めく果実のようなそれを貪る。どこか遠くを見つめる瞳は、今はうっとりと細められて目の前の男だけを見つめていた。
大司教は国王の胸に背を預け、国王はそんな大司教の体を優しく抱きすくめる。そこには誰にも立ち入ることのできない二人だけの空間が存在していた。口付けを交わし合う間にも、大きく骨ばった男の手が丸い乳房を揉みしだいている。細くくびれた胴の上から零れ落ちんばかりに突き出た柔らかな肉に指が食い込み、形を変える度に大司教はひどく気持ち良さそうな声を上げながら悩ましげに腰をくねらせる。もう片方の手が下肢の奥を探ると、小さな体はがくがくと跳ね、甲高い声を途切れ途切れに幾度も上げ、そして弛緩した。
女を抱いた経験は幾度もある。昂る夜には時折女を買い、いきり立った欲望をぶつけたりもした。しかし、これまで抱いてきた女の中で、これほどまでに肉感的な体を持った者などいなかった。神々しく禁欲的にすら感じられるその衣服の内に隠されていた、たわわに実った豊かな双つの膨らみはどんな感触なのだろう。そこに顔を埋めたらどんな匂いがするのだろう。桃色に色付いた先端は、一体どんな味がするのだろう。考えて、生唾を飲み込んだその瞬間──
抜き身の刃のような鋭い眼光がそこにあった。
伏せられた睫の隙間から、青い瞳がじろりとこちらを捉えていた。気付いている。明らかにこちらに気付いている。冷や水を浴びせかけられたように肝が冷えた。好奇心は猫をも殺すと言うが、目の前で行われているその行為から視線を逸らすことができなかった。まるで縫い留められたかのように、その場から動けなくなってしまう。
くたりと力を失った体が、寝台の上に横たえられる。敷布の上に押し付けられた柔らかな胸が、押し潰されて形を変えていく様子がひどく淫靡に映った。国王の唇が剥き出しの白いうなじに寄せられ、軽く食むと開かれた小さな口はあえかな声と共に熱い息を吐き出した。
荒い呼吸と共にしなやかな背中が大きく上下している。その動きに合わせるように、押し上げられた乳房が波打つようにたわんでいた。滑らかな背筋をつっと指先が這い、なよやかな腰を掴み上げる手にびくりと震える体。潤んだ目が振り返り、大司教は期待と共に国王を見上げる。白い喉がひくりと動いた。
そうして勃然と姿を現した屹立に、思わず目を疑った。
隆々と反り返る長大な男根の先端で、大きく張り出した亀頭がその存在を主張していた。血管が浮き出て凶暴な形をしたそれは、手首ほどの太さがあるのではないかと思ってしまう。そんなもので穿たれてしまえば、一体どうなってしまうのだろう。その結果は大司教だけが知っていた。
凶器のような屹立が、張りのあるしなやかな腿の間を通って入り口に触れた。ぐちゅり、という粘着質な水音が響く。国王がぐっと腰を進めれば、ぬちぬちと音を立てながら巨大なものが埋没していく。大司教の小さな体のどこにそれを受け入れられる場所があるというのか。
傘の部分を潜らせ、太い幹を埋めながら、青い目が艶めかしく流し見るように睥睨していた。この女を満たせるのは自分以外にいないのだと、この体は自分だけのものなのだと突き付けるかのように。
背後からずぶずぶと貫かれ、大司教は盛大に悲鳴を上げる。白い手が敷布を固く握り締め、幾度も掻いていく。閉じることのできなくなった口からはちらちらと赤い舌が覗き、端から唾液が伝っていた。可憐な目元からはらりと涙が弾け落ちるが、それらは決して苦痛によるものではない。大司教は自らを犯すものが与える得も言われぬ快楽に善がり、随喜の喘ぎを零していた。全身を痙攣させ、頬を紅潮させるその表情は、気持ち良くて堪らないのだと雄弁に主張している。
心臓がぐっと縮まり上がった。ようやく我に返ると今更ながらに畏れ多い気持ちが湧き上がり、扉を閉めて足早にそこから立ち去る。しかし、すっかりと鋭敏になってしまった聴覚は、一層激しくなった嬌声を聞いていた。もしかすると、扉の内では今頃あの大きな剛直で思うまま存分に秘された花園を掻き回されているのかもしれない。
いつの間にか走っていた足を止め、ずるずると壁に背を預けてへたり込む。息が上がっているのは走ったことによるものなのか、興奮によるものであるのかは分からなかった。ただ、己の股座で硬く勃ち上がっているものの存在があることは分かる。
目の当たりにした濃厚で官能的な交わりに、自分が行ってきた交合など児戯であったのだと思い知る。眼裏に映るのは淫らに歪められた大司教の蠱惑的な姿。もう二度と、あの人を純粋な目で見ることはできそうになかった。
嗚呼、主よ我を赦し給え。祈りながら、郷里へと帰ろうと決めた。