FE風花雪月その他

紅花クリア記念に書いたもの


 戦後、降って湧いた様々な面倒事を片付けて、ようやくゆっくりできるようになったのは数年が経ってからのことだった。本当は一年ほどでさっさと片付けてしまいたかったのに、今回の戦争といい人生とはなかなか思い通りにいかないものだと痛感させられる。
 その中でも例外中の例外とようやく帝都を出て、人里離れた場所に居を構えることができたところで、今は各々持ち込んだ荷物を整理しているところである。
 大量の書籍をひとまず置ける場所に積み上げながら考える。まさか自分に大切だと思える人ができるとは。人間らしい情緒は持っているし、人嫌いという訳でもない。ただ、執着などという面倒極まりないものを自分が持ってしまうとは思ってもみなかったのだ。
 そろそろ部屋を散らかすのにも飽きてきた。そもそも自分の体は労働するように出来ていないのだ。
 時間はたっぷりあるし、手伝ってくれる人もいる。今やらねばならない要素など一つもない。よし、やめた。そうと決まれば昼寝の時間だ。
 作業を全て放り出し、大樹の節の心地良い午睡を噛み締めようと部屋を出る。二階にある寝室はうららかな陽光をたっぷり浴びられるように作ってあり、昼寝をするには最適な環境なのだ。この世の楽園だと心躍らせながらドアを開けると、先客の姿が目に入る。
 昼下がりのやわらかな光を浴びながら、その人はベッドの上で倒れ込むようにして穏やかな寝顔を晒していた。状況から察するに、寝具を整えていたところでうとうととしてしまい、そのまま眠ってしまったのだろう。力の抜けた体が、寝息に合わせて心地良さそうに上下している。
 思えば、この人の寝顔を見るのは初めてのことかもしれない。急ぎの用事で夜中に部屋を訪ねた時も、ドアを開けた時には目を覚まして起き上がっている状態だったのだ。置かれてきた状況を鑑みるに、そうなってしまうのも仕方がない状況ではあるのだが、こうして無防備な姿を晒してくれるということはつまり。
「……それだけ信用してくれてるってことなんですかね」
 問いかけへの返事はない。零れた笑みと共に、穏やかな眠りを貪るその隣にお邪魔する。瞼を下ろせば睡魔が勝手知ったる様子で入り込んできて、深い眠りへと誘ってくる。
 きっと次に目覚めた時には、すっかり日が落ちてしまっているだろう。だが、それでいい。
 この人がようやく何にも縛られずに生きられるようになったのだと感じながら、隣にある温もりを想う。
 開け放たれた窓から漂う仄かな草木の香に、外で眠るのも気持ち良さそうだと思いを馳せた。
 やがて聞こえ始めた小さな寝息は、柔らかなベッドの中で一つに溶けていった。