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初めて彼を受け入れた時は、ただひたすらに痛かったことを覚えている。灼熱の楔が穿たれたかの如く、衝撃と痛みが身を裂いた。痛くて、痛くて、でもそれを口にしてしまえば彼が行為を止めてしまうと思ったから、必死にシーツを握り締めて唇を噛んでいた。痛みの中で行為を終え、労わる恋人の腕の中で、これはきっと『彼という存在を受け入れる』という行為であり儀式なのだろうとぼんやりと考えて、ならばひたすら痛みを伴い続けるこの行為をやめたくはないと思ったのだ。彼に寄り添い続けていたかったから。
二度目の行為は一度目ほどの痛みこそないものの、やはり身を裂くような痛みがあった。内臓がせり上がる感覚。体内をこじ開けられていく仄かな恐怖。だが、愛する人の一部を自身の中に受け入れているのだという確かな充足感があった。夥しい鮮血に染まったシーツと、立ち上がって歩くことすら儘ならなかった初夜を思い出して少し不安になったが、思いの外順応していたらしく、違和感はあるものの歩くことはできた。自分の体が少しずつ彼の形に変化しているように感じて、その時胸に湧き上がった震えるような歓喜は、今でも鮮明に思い出すことができる。
ギィとベッドが鳴いた。
簡素な外見ながら存外しっかりとした作りのそれは、立香が普段横になっていても軋み一つ上げない。その音が鳴るのは、そう。彼と体を重ね、激しい熱を受け止めている時だけだ。明かりを落とした夜の自室は日常の一部であるはずなのに、軋むベッドの音がその空間を非日常へと誘っていた。『そういうこと』をしているのだ、と耳元で囁くかのようにその音は立香の聴覚を侵し、柔らかな素肌を興奮に火照らせた。
熱い肌を、むっちりと実った二つの乳房を、張りのあるしなやかな腿を、武骨な手が性急に触れていく。掌は汗ばんでいながら、慎重に加減した強さで胸を揉みしだく。男の欲を孕んだ手が、立香を慮って自制している。愛おしく思うが故に相反するものに苛まれる瞳を見るのが、立香はたまらなく好きだった。そこに走る切なげな色に、ひどく興奮するのだ。
「っ、ガウェイン……!」
ぬめりを帯びた指先が敏感な花芽を弄ぶ。襲い来る快楽の波濤に立香はたまらずその名を呼んだ。ぐずりと埋没する指が、一本、また一本と増えていき、立香の内部で蠢いていた。自分の体を他者に明け渡しているという本能的な怯えと、自らの体内に何かが侵入しているというおかしな感覚は未だある。だが、立香に触れ、その痴態を目の当たりにして息を乱す恋人の様子を見ていると、自分がそうさせているのだという無上の喜びが溢れてくるのだ。
力強く隆起していくその切っ先の鋭さを知っている。指よりもずっと太くて大きなそれが押し入ってくる感覚を知っている。中に入る時、悩ましげに細められる目を。そこに宿る荒々しい雄の欲情を。
「リツカ」
やや硬い声が名を呼ぶ。両の腿が割り開かれて、ぴたりと熱い先端が触れる。これからこれが入ってくるのだという緊張にばくばくと胸を鳴らしながら、立香はこくりと頷いた。
ギッ、とベッドが悲鳴を上げた。
大きく張り出した傘の部分が、狭い入り口をぎちぎちと目一杯に広げていく。こんなものが本当に自分の中に何度も入っていたのだと思うと未だに信じられない。つるりとした先端が沈み込み、ぬめる蜜筒を拓きながら進んでいく。蹂躙していく。ぐっと腰を進められると、尋常でない質量が立香の体内を押し広げ、満たしていく。襞をいくつも押し上げて、奥の奥までぴっちりと満たしても余りある剛直が突き立てられ、硬い先端で穿たれた時、立香の体は今までにない感覚を拾い上げた。
「あ、っ!」
鋭いその痺れに、意識が働くよりも早く立香は声を上げていた。痛みによる悲鳴は我慢できた。しかし、それは理性よりも早く立香の本能の扉を強引にこじ開けていったのだ。痛みがない訳ではなかったが、その奥にある未知の感覚が、立香の全身を電流のように駆け抜けたのである。
上がったのは、信じられないほどに甘く上擦った声だった。初めてのことに狼狽しながら目の前のガウェインを見上げると、彼もまた驚きに目を瞠っており、そしてその目をゆっくりと細めた。そこにあったものを、立香は形容できる気がしない。喜びと、劣情と、嗜虐心と、深い愛情。様々なものがない交ぜになったその瞳が、陽炎のようにゆらりと揺れた。その瞬間、立香の全身が粟立つ。それは、これから自分という存在が塗り替えられるという予感であった。
「あぁ……!」
気持ちがいい、とはっきりと感じた。痛みの中で、ぞくぞくと身を震わす官能が芽吹いていた。ぐり、と抉られる度にじくじくと胎の奥が疼くのだ。熱い滾りが何度も立香を貫く。立香の体を塗り替えていく。凶器のようなそれが内壁を擦り上げ、蜜壺を掻き乱す。男に征服され、自分が自分でなくなっていく得も言われぬ感覚に、立香は前後不覚に陥りながら陶酔した。
「リツカ……っ!」
余裕を失くした声が立香の名を何度も呼び、華奢な体を揺すぶる。互いが互いの熱に浮かされ、耽溺していた。幾つもの汗が肌を滑り落ち、肉体がぶつかり合う衝撃に弾けた。秘裂の間はぐずぐずに蕩けきっていて、最早互いの境目が分からない。このまま溶けて一つになってしまうのでは、と考えてきゅんと締まった内部が自身を犯すものの形をはっきりと感じ取ってしまい、立香は目も眩むような逸楽に法悦の喘ぎを漏らした。
ギシギシとベッドが慟哭している。
名を呼び合いながら、じゅぷじゅぷと音を立てて幾度となく互いを貪った。自身の内から湧き上がるものに急き立てられるがまま、ひたすらに果てを目指してひた走る。鮮烈な愉悦に、もう何も考えることができなかった。深く繋がり合うその奥で、張り詰めた男根がぶるりと震え、溢れんばかりの熱情を注ぎ込んでいくのを立香はその広い背に腕を回して受け止める。自身の体内に迸るものを感じながら、染められていく、と漠然と感じた。
「今宵は、中で感じておいででしたね」
ベッドの上にしどけなく身を横たえながら、ガウェインが囁く。食い締めていたものをずるりと引き抜かれると、ぽっかりと開いた口からとろとろとあふれ出すものを感じる。それが自身の零したものか、彼の放ったものなのかは分からないが、今更ながらに淫らな交わりを思い出して頬が熱くなった。
明け透けなその言葉に羞恥が書き立てられ、取り繕いたい気持ちに駆られる。しかし、目の前にあるその整った容貌がひどく嬉しそうな表情を浮かべていたので、立香は飾らぬ気持ちを伝えることにした。
「うん、気持ち……よかった」
やはり素直にそれを認めるのは恥ずかしさがある。引きずられるように先程の行為の情景が蘇り、その生々しい欲の香に顔を覆いたくなる。抗えない快感の波、甘い蜜のような痺れ。その残滓は今も体に残っている。
大きく逞しい掌が、立香の頭を優しく撫でる。毛先をすくい上げ、指に絡めて弄びながら、ガウェインは続けた。
「貴女が快楽を得ることができて……よかった。随分と痛い思いをさせていたことと思いますので」
ひどく安堵した様子で、そして痛ましげに。そう告げた彼は此度までの交わりに晴れぬものを感じていたのだろうか。それは気負いすぎであるというのに、実直な彼らしくあった。そこに痛みを伴おうが、立香の気持ちは変わらないというのに。立香はふっと笑みを零すと、子供を宥めるように優しい声音で語りかけた。
「痛くても、私はガウェインとこういうことしたいと思ったよ。あなたに触れたい、受け入れたいと思うから」
立香にとってこれは相手に触れて、触れ合って、愛しているということを伝える行為である。だからこそ、そこに付随するものが何であれこうして肌を重ねたいと思うのだ。
髪を梳いていた手が止まり、それは立香の背に回されて強くその身を抱き寄せた。力強いながらも優しいその抱擁は、言葉なく彼の心を伝えてくれる。触れ合う肌のぬくもりの心地よさに、立香はうっとりと目を閉じた。
「……もう一度、貴女を抱いても?」
ごく近くで囁く、掠れた声。取り繕わぬその誘いに、心臓がぎゅっと縮まり、一気に早鐘を打ち始める。意識しないままに体がほんのりと熱を持ち始め、じくりと下腹が疼く。くらくらと頭がのぼせるのを感じながら、立香はすぐそこにある熱を持った瞳を見上げた。自分も、こんな目をしているのだろうか。
「優しくして……くれるなら……」
恥ずかしさにもごもごと返した答えは、彼に届いていたようだ。目元を和らげた彼は、その奥に情熱の炎を灯しながら口端を吊り上げた。
「私が貴女に優しくなかったことなどありましたか?」
悪戯のようにキスが降る。そうだった、と立香が笑みを零すと、少しずつ深くなっていく口付け。甘く溶ける砂糖菓子のようなそれに酩酊しながら、きっと自分の体は彼の形に変わっていき、塗り替えられていくのだろうという予兆に震えた。彼を知らぬ身体にはもう戻れないのだと、己を征服する男の舌に立香はそっと熱い舌を絡めるのであった。