光、束ねて

FGOベディぐだ

過去のワンドロ


「宝具を強化しよう」
 主の自室へと呼び出されたと思えば、告げられたのはその一言であった。見えない要旨にはて、と首を傾げていると、傍へ来るようにと手招きされ、それに従って歩を進める。
「宝具を強化するとは、一体何を……?」
「こうする」
 問いかけに対する答えは、少女の力強い抱擁にて返された。突然のことに戸惑いつつ鎧を編み上げる魔力を解くと、遮るものがなくなりより強く体が密着する。背に回された腕がぎゅっと体を締め付け、柔らかな肌の感触が伝わる。
「ベディヴィエールの宝具は私との絆で発動するんでしょう?だからこうして絆を深めて……というのは建前で、私がこうしたかっただけ」
 顔を上げた立香の頬は薄く紅潮していて、とても可憐だった。時折こうして密かに抱き合ったり、唇を重ねることはあったが、機会はそう多くない。特に最近はレイシフトを行ったりと慌ただしく多忙な日々が続いていたため、彼女に触れることすらできなかった。
 ぎこちなく理由を付けて身をすり寄せる立香がたまらなく愛らしい。どうも随分と寂しい思いをさせてしまっていたようだ。そして、そう感じていたのは自分だけではなかったのだと安堵した。
 彼女に触れられない日々は、特に夜になると無性に切なくなる。恋しいと思う気持ちが夜毎に募っていく。しかし、節度なく主に触れるなどあってはならないことと律し続けてきた。
「私も、貴女に触れたいと思っておりました……」
 華奢なその肢体を強く掻き抱くと、胸元で深い吐息が漏れた。久々に触れたその体と、懐かしさすら覚えるにおいに暫し酔い痴れる。五体全てが満ちていく。ああもう、彼女を知らぬ身体には戻れないのだと実感した。互いの視線がごく近くで絡み合い、それに吸い寄せられるかのように唇を重ねた。柔らかく温かいその感触、吐息すら惜しいとばかりに何度となくその隙間を埋め、互いを貪った。飢えていた。互いが互いを求めていた。騎士たるもの常に冷静であらねばならぬと分かっているが、激しい感情が身を焼くのだ。こんな自分を知ったのは、立香と恋に落ちてからだ。
「貴女を知ってから、私はどんどん貪欲になっていく。止めることができないんです」
 口付けを深くしながら囁く。心が強く、立香を求める。息を荒くしながら彼女がそれに応えてくれることが、同じように求めてくれることが、嬉しくてたまらない。
「止めなくたっていいのに。私だって、ベディが欲しくてたまらないの」
「いけません、壊してしまいます……」
 眩暈がしそうだ。きっと心のままに求めてしまえば、際限がないことを知っていた。
「壊したっていいよ」
「貴女という人は……!」
 細い体を抱き締める。ひどく小さな、頼りない体だ。力を込めれば折れてしまいそうなほどに。だからこそ、守らねばと思うのだ。
「貴女を恋しく思う気持ちが強くなるごとに、守りたいと強く思うのです。その心が貴女を守る力となるのならば、これほど喜ばしいことはない」
 応えるように、立香がごく近くで微笑んだ。その瞳は、とてもやわらかな光を湛えている。それはきっと、どんな宝石よりも美しくいものであるのだ。
 返還し、失われた星の剣光の代わりとなる、新たな力。立香を想うこころは、星の光にも勝るとも劣らぬ輝きだ。胸の中に息衝き、震え燃えるこの想いが、その力の薪となり彼女を守るのだ。
 輝ける銀色の腕。その煌めきが失われることは決してない。かつては己の罪の証として。そして今は、主との絆の証として、その右腕は剣を摂る。