「珍しいな、お前が茶会なんて」
湯気を立てるティーカップと、置かれた茶菓子。そこに着席する男が二人。
「茶葉を押し付けられただけだ」
「そうか、ではありがたくいただくとしようか」
フェリクスがぶっきらぼうに言い放つと、ディミトリは苦笑しながら茶に口を付けた。不思議な香りがするなと呟きながら、彼はカップを傾ける。
「混ぜ物があるからか存外に甘くてな……俺には飲めんがお前は飲めるだろう」
その時、ディミトリの表情が一瞬強張ったのをフェリクスは見逃さなかった。その変化を、あえて追求せずに続ける。
「お前はこういう、甘ったるいものを好んでいただろう」
幼少の頃を引き合いに出され、ディミトリは口元を微かに綻ばせた。そうだな甘いな、と肯定の言葉が続き、会話のない茶会が続く。
馴染みのない光景に中庭の住人達はそれぞれが奇異の目を向けていた。それを意に介した様子もなく、彼らはカップを傾けている。
「ディミトリ、こんな所にいたのね~。先生が探していたわよ~」
その空気を打ち破ったのは、まったりとした女性の声音であった。姿を現したメルセデスは、二人の姿を認めると笑みを浮かべた。
「そうか、すぐ向かおう。フェリクス、良ければまた呼んでくれ」
甘い茶なら、メルセデスの好みかもしれないな。そう言い残して慌ただしくディミトリは去っていった。メルセデスはすっかりと興味をそそられた様子で、好奇心に満ちた視線をポットに向けている。
「私の知らない香りだわ〜。飲んでみてもいいかしら?」
好きにしろ、という返事を聞いてから、メルセデスはカップに茶を注ぐ。期待に輝くその表情は、口を付けた途端に渋面に変わっていった。
「あら~。これ、とっても渋くて苦いわ。二人共、よく飲めるわね~」
眉を下げながら、メルセデスは口元を押さえた。二口目を口にする様子はなく、彼女は信じられないものを見るかのようにカップの中身を見つめている。減る様子のないカップと対照的に、ディミトリのカップは白い底を露わにしている。
「そうだな。だが、奴にとっては甘いらしいぞ」
そう吐き捨てると、舌打ちと共にフェリクスは苦々しいそれを嚥下した。