バロット

FE風花雪月ディミレス

 その人は異質な人だった。眉一つ動かさず人を殺し、笑いも怒りもしない。しかし生徒によく気をかけていて興味がないという風でもない。何を考えているのか、その瞳には何が映っているのかが全く分からなかった。まるで機械のようで、人としての温かみが感じられないその姿は異様で、恐ろしさすらあった。
 いつからだろう、その人から血の通った温かさを感じるようになったのは。いつからだろう、その人の在り方を美しいと思うようになったのは。いつからだろう、その人に信頼を置き、力になりたいと考えるようになったのは。
 この気持ちを、何と呼ぼう。気付けば目で追っている。その人が隣にいることに安らぎを感じている。その瞳に自分が映っていると嬉しくなる。不思議な感覚だった。それらの感情は、一体どこからやって来るものなのかはよく分からない。
 この胸に息衝き、育っていたその想いは、名前を与えられる前に死を迎える。
 熱く煮え滾った憎悪が、殺せと叫ぶ。この身はそのためにあるのだと、復讐を求める。ああ、血が通っていないのは俺の方だったのだとようやく気付く。既に死んだこの体は、あの首を断つ為だけにある。それ以外は、何も要らない。
 ──それは、孵ることなく終わってしまった何かの話。