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岩場に腰掛け、遠い空を眺めていると、一人で旅を続けてきた頃を思い出す。今もその旅の延長線を歩んでいるのだが、その旅路には随分と人の姿が増えていた。久しく忘れていた賑わいを目にしていると、ふと思うことがある。
華々しいあの円卓は、どうして失われてしまったのだろうと。
きっと、誰のせいでもない。円卓を去った者、王に反旗を翻した者、誰のせいでもなく、滅ぶべくして迎えた終わりである。
ただ、私だけが間違った。私こそがあの高潔たる王を穢し、そして殺したのだ。
英霊となった円卓の騎士達は、新たな王へとその忠誠を誓っている。聖都の頂に立つのは我らが王である。しかし、我が王ではないのだ。私が崇め尊び、剣と忠誠を捧げた王は、私自身が奪ってしまったのだから。
どれだけ歩もうと、彷徨おうと、私が帰るべき場所は──帰りたいと願う場所は、『あの』円卓なのだ。そこは既に滅び、私に帰る場所など残されていなくとも、私は確かに、あの円卓を愛していた。
右腕に携えた凶器が重い。それは聖剣の重さであるのか、殺した命の重さなのかは分かりかねた。我が王は、きっとこれよりも重いものを背負っていたのだ。我らが、背負わせていた。
だからこそ、私はこの剣を返さねばならない。私が殺してしまったあの方を、偉大なる王として眠りに就かせるために。獅子王たるあの方を、殺すために。
かつて轡を並べた円卓の騎士達と剣を交えようと、親しき友を手にかけようと。何を犠牲にしようとも、私は二度とこの歩みを止めてはならない。もう一度止まってしまえば、立ち上がることはできないと知っていた。
「隣、座ってもいいかな?」
突然降ってきた声に振り返れば、こちらをじっと見下ろす琥珀の双眸があった。この目は少し、苦手だ。とてもまっすぐで、透き通ったそれに見つめられると、訳もなく苦しくなる。美しい目だ。それ故に、怖い。
「どうぞ」
私が彼女を恐れるのは、私の個人的な感情だ。彼女に何一つ非はないのだ。何事もない風を装って、私は少し体をずらして彼女が座る隙間を空ける。
ありがとうと笑いながら、立香は私が空けた隙間に腰掛けた。ごく近くにある他人の体温。遠く光る空を、共に見上げる。
「少し寒いね」
「……そうですね」
東の山に吹き付ける風は強く冷たく、硬い岩肌があるばかりで木々の姿もあまりない。人が住むための地でない場所を、必要に迫られて切り拓いたが故なのだろうとふと思う。この地に豊かな場所などどこにもない──聖都以外は。
「人が多いのは嫌い?」
あまり人の輪に加わろうとしないことを懸念してか、立香が問いかける。こうしてやって来たのも、私を慮ってのことかもしれない。
「嫌いではありませんが……少し、慣れなくて」
そっか、と立香は呟く。ずっと一人で旅をしてきたこともあるが、あの賑わいは今を力強く生きる人々の眩しさと、打倒円卓を掲げる空気への居心地の悪さがあった。きっと彼らは私を拒まない。共に戦う同志と認めてくれるだろう。それ故に、私は居た堪れなくなるのだ。
この地を統べる円卓の騎士達の所業は、決して許せるものではないだろう。そうして、奪われた者達は円卓を、その頂に立つ王に対して怒りを向ける。我らが王だ。誰よりも気高く崇高で、そして、私がその在り方を捻じ曲げてしまったお方なのだ。
「仲間と戦うのは、怖い?」
当然怖い。彼らの力は隣で見てきた自分が一番よく知っている。それに、彼らは英霊と化しており、とても人の身で敵うような相手ではなかった。
「いえ、私自身が決めたことですので」
これが私にできる精一杯の武装だった。あまりにも粗末な虚勢の鎧。でも、それがなければ私は彼らに立ち向かうことすらできないのだから。
「そっか。強い相手だけど、王様に会ってお話ができるといいね」
「王を倒すのではないのですか?」
民達から住処を奪っているのは聖都にいる王である。てっきり彼女も打倒を掲げているのだと思っていたのだが、予想外の言葉に戸惑ってしまう。
「どうして? あなたは王様と会ってお話がしたいんでしょう?」
さも当然の如く告げられて、私の方が驚いてしまう。ただ、あのお方を否定しないでくれたことが嬉しかった。我が王は、遠く輝くあの光のような方なのだ。
月が清かな夜だった。隣に誰かがいることには、まだ慣れそうにはない。