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時々ふと思うことがある。何故彼女は傍にいてくれるのだろうかと。
立香は彗星だった。後悔だらけの私の人生において、遠く瞬く一等星が我が王であるならば、彼女は私の心に隔たるあらゆるものを破壊し尽くして飛び込んできた、ただただ眩い光である。
「待ってたよ」
カルデアに召喚された私に、彼女は手を差し出した。立香はただ、私の贖罪に付き合わされただけだというのに。私が誤らなければ、あの特異点も生まれなかったかもしれないというのに。
我が王のような威厳も風格も、力も何一つ持たないこの小さな少女の手を取った瞬間、彼女は私にとって特別な存在となったのだ。
騎士としての剣は我が王へと捧げた。今もその思いはこの胸にある。だが、彼女にはただ一人の人間として剣を捧げたいと願う。苦難を切り開き、その身に降りかかる災いを断つ剣でありたいと。しかし、彼女が佩く剣は一振りではない。
私には立香しかいなくとも、彼女の手には幾つもの剣がある。それこそ伝承に残る大英雄だ。だが、彼女は凡庸な私を選ぶ。その理由が、未だ分からずにいる。
「どうして、私なのです」
問いかける。立香はよく分からないといった様子で目を瞬かせていた。ああ、いけない。これは私の抱える劣等感だ。己が罪への慚愧の念だ。
こんなものをぶつける気などなかったというのに、私は口を開いていた。耐え難かったのだ。彼女が私を選ぶという事実が。
立香が私を選ぶ度、私の中にある仄暗い優越感が満たされるのを感じる。彼女が他の全てを差し置いて私を選んだのだという、得も言われぬ喜びが湧き上がる。
それと同時に抱くのは私のような者が彼女の隣に立っているという畏れで、人理を救う者は私のような者であってはならないと、佃たる思いに消え入りたくなるのだ。不安定な私の心は、相反する思いの狭間で揺れている。その度に思わされるのだ。『相応しくない』と。
「どうしてって、私がベディを好きだからじゃ駄目?」
返ってきたのは思ってもみない答えで面食らう。頬がじわりと熱くなるのを感じながら、首を振る。『そのようなことがあってはならない』と、この胸が叫ぶ。
「私は真っ当な英霊ではありません。相応しくないのです」
どうして? と立香が問う。まっすぐな瞳が私を見つめる。それらはまるで鋭利な刃の如く胸の間を裂き、その内側を引きずり出して晒していくのだ。
答えに窮した。それは、私が抱え続けた後ろ暗い思いの成れの果てであった。私の存在は『間違い』である。正史としてこの世界に伝わっているのは、正しく聖剣を変換した善き騎士たる私である。ならば、今ここに立っている私は誤った選択が結実したものであり、一生雪げぬ罪である。だが、それを理解はしていても、認めることは堪らなく怖かった。臆病なのだ。私という人間は。
「私はね、あなたという人間を否定して認めたいの」
立香はその円らな瞳に強い意思を宿しながら告げる。彼女がそんな目をする時、それが絶対の決意であることを知っていた。
「ずっと挫けずに歩き続けたあなたの心の強さは、誰にも持つことができないものだと思う。だから、あなたは誇っていいの。英霊として、ここに立つベディヴィエールを」
一言一言を噛み締めるかのように、立香ははっきりと告げる。強く、心に刻み付けるかのように。耳を塞ぐことを許さないとでもいうかのように。
「それがあなたを選ぶ理由、それじゃ駄目?」
言葉が出ない。『間違い』たる私を、彼女は認めてくれるのだという。それが果たして正しいことであるかは分からない。ただ──ただ。この瞬間、ここにいる私は間違いなく救われたのだ。
弱く愚かであったが故に間違ってしまった、人間たる私の歩んだ道行きを。罪と後悔と思い出に縋って歩き続けた、途方もない一瞬の旅路を。そうしてここに立っている英霊たる私を。それは価値あるものであるのだと、彼女は選び手を差し伸べてくれたのだ。それはなんと、罪深くも誇らしいことであるか。ただひたすらに果てなき道を歩み続けた私を想う。そうして語りかけるのだ。お前の歩んだその道は、決して無駄なものではなかったと。それを知り、認める人はいるのだと。それはなんと、心強いことであろうか。
弱い人間である私は、凡庸たる彼女に支えられている。それは英霊としてひどく無様で、滑稽で。彼女が隣に立っていることで、私という存在は認められる。だからこそ──立ち塞がる敵を切り捨て、呟く。
「無敵だ」