original sin

FGOベディぐだ

2018年6月に書いていた2部序章ネタ。実は退去してなかったサーヴァントとわんわん泣くぐだ子さんのおはなし


 英霊召喚システムの廃止に伴い、英霊の退去が命じられた。マスターと最後の別れを済ませ、カルデアはダ・ヴィンチを残して全ての英霊が退去──というのは表面上の話。データを書き換え、幻術で観測結果や探知すらも欺き、地下の工房に身を潜めて数日。ついにその機は訪れた。
「我々がおとなしくそれを受け入れるとでも?」
 今だ! という号令と共に一斉に散開する。障害を排斥し、主である少女のもとへ一目散に駆け抜けた。
「マスター、こちらへ」
 驚きに目を瞠り、身を固くしている彼女を匿い、先導しながら避難する。あらかじめ決めておいたパターンと経路に従って慎重かつ迅速に移動し、ひとまずは追跡の手を逃れることができた。あとは残っている人員がうまく離脱できればよいのだがと思案していると、繋いでいた手に込められた力が不意に強くなる。相手の方を向くと、呆然とした様子で少女がじっとこちらを見ている。
「なんで……?」
 困惑のためかうまく言葉を繋げられず、発された問いはそれだけであったが意味は理解できた。
「退去したように装って今まで身を潜めておりました。意図せぬ漏洩の虞があったので、マスターにはお伝えできなかったのです」
 主は本来魔術師ではない。ごく普通の人間だ。そんな彼女がその手の者から術を受ければ、赤子の手を捻るよりも容易く意識を奪われるだろう。作戦遂行のためとはいえ、主を騙す形になってしまったことは心苦しく思うが、必要なことであったのだ。
 すると、唐突にその大きな円い双眸から、ぼろぼろと透明な雫が零れ落ちていく。別れの際、穏やかに細められていたその瞳は今、大粒の涙を湛えて揺れていた。
「う、うええええん」
 それを皮切りにして、立香はまるで幼子のようにわあわあと声を上げて泣き始める。突然のことに今度はこちらが呆気に取られていると、涙に濡れ、震えた声で少女が泣き叫んだ。
「寂しかった……寂しかったよう……!」
 しゃくりあげる合間の、整わない言葉。乱れに乱れたそれが、彼女の心そのものだと思うと胸が締め付けられる。火の付いたように泣きじゃくる立香の頭を宥めるように撫でながら、後悔とも罪悪感ともつかぬ思いが自身を刺すのを感じていた。
 ──ああ、この少女は。本当の別離が訪れた時、どうするのだろうか。